閉じるように、断絶

飲まなきゃやってらんない、なんてことはないし、そういうときに飲むとだいたいもっとやってらんないことになるのだが、それでも昨日はお酒を少々いただく。で、またエラソーに喋る。

「もうね、あんたとやってて、あんたもわたしもいつでも、客席に座ってこっち見てる人、俗にいう観客と言われる人たち、その人たちに一応ちゃんと聞かせる届ける、んなことできるのはわかってますよ。だからさ、ここは勇気をもってだな、我々のそして個々の中に閉じよう、閉じていこう」「なるほどですねー」「あおまえ、閉じるったって聞こえなくちゃだめよ見世物なんだから、少なくとも観客と言われる人たちはそう思ってきてるらしいからな。客席に背を向けながらもちろん比喩だよ例えだよ客席に言葉を届けるのだ、どうだ矛盾してるだろう。舞台と客席との断絶を見せつけながら見世物としての俳優の業に苛まれるのだどうだやめたくなったろう」「なるぽろぴりんー」「かなちいかくるちいか、そんなちみのすがたをみてヒトは喜ぶのだぞもっとフコウになれもっともっと」「なますてこにゃにゃちわ」

そんないろいろを携えて今日も稽古に向かう

Blochで稽古

「優しい乱暴」。昨日は、公演会場のBlochで稽古した。
私にとっては、すごく久しぶりのBlochの舞台。

本番の舞台と客席含めた空間で稽古して。
さてそうすると、いろいろなことになるのだが。俳優ってやつは。

ここで勇気をもって、もう一度本に戻りたい。
本に戻らなければいけない。

せりふをつぶだてる

「セリフを粒立てる」。この前飲んでてそんな話になったんです。

「粒だたせるか」
久しぶりに少々酔って乗った最終電車で考える。たしかに芝居の現場ではしばしば耳にする言葉ではある。

で、思う。「粒だたせればいいのか?」
さらに思う。「粒だたせちゃぁ、いかん」

はっきりと聞こえるようにしゃべることができる、これは必要な技術ではある。しかし、技術には使い方っちゅうもんがあろうに。

簡単に「セリフを粒だたせる」なんてことをしちゃあいかんのではないか。それは、与えられたホンの言葉に対して不誠実なんじゃないか。
それはセリフを粒だたせてるということで、ちゃんと聞いてください届いてください僕の言ってること伝わってください僕ちゃんと喋りましたちゃんと大事にしゃべりましたって、そういうところへ逃げてるんじゃないか。とまたえらそーに考えるワシ。酔ってるからな。酔ってるからだからな。

「おめえの技術自慢に付き合ってるほどヒマじゃねえや。」
酔うと人は普段考えもしないようなことを考えるから気を付けないといけない。

上野幌と北広島の間の森と畑ばかりの暗闇を列車は進む。数年後ここらへんに食肉加工会社の関連企業の球場ができるのだという。迷惑だな、ほんとに。

デッキの窓に映る酔った男の顔を眺めながら思う。「粒立たせて喋ればよかろうという、その性根が、俳優のいやしい心根が気に食わねえ。」

酔っ払いとそうでない人を混載した最終列車は駅に着いた。私は列車を降りた。そこが私が降りるべき駅だから。
バスが無いから40分ほど歩く。
40分くらい歩くと、だいたい人は考え事をすることになっている。

「もっとセリフを粒だてて!とかいう無能な演出家に近づいてはいけないしそういう輩がまき散らす悪しきエンゲキという害悪を駆逐することが今の我々に与えられた使命だな」
疲労は人に、これまで決して一度たりとも思ったこともないような、本来の自分には想像もつかないような事を考えさせることがあるようだ。

まあ、何言ってるかわからないんじゃあしょうがないしな。聞こえなかったらどうしようもないしな。
それはわかりますよだから「粒だてる」っていうのもわかりますよ。現場の大人の事情だな、ほとんど。だからこういうことをいちいちわーわーいうワシは野暮なやつだな。
家が近づいた。年寄りが多い界隈だからみんな寝てるぞ。場合によるともう起きてるぞ。

わしは思う。「本に書いてある言葉を安易に粒だてるな。」